金沢、富山の歌会のお知らせ
これは先頭の固定記事です。最新エントリーはつぎの記事から。
金沢と富山で定期的に歌会を開いています。どんな方も気楽に楽しんでいただける、ざっくばらんな歌会です。短歌が初めてという人もお気軽に遊びに来てください。
金沢・鏡の会
鏡の会は歌歴も所属も一切問わない歌会です。結社などに所属していなくても、今日初めて短歌を詠んだ方でも大歓迎です。鏡の会が初めての歌会という方もいらっしゃるのでご安心ください。
場所は金沢市街や金沢駅周辺になります。参加人数によって勤労者プラザかITビジネスプラザ武蔵の会議室、教育会館の休養室などで開催します。
開催は主に平日の夜、毎月第四月曜日か金曜日など。定員に余裕がある場合はTwitterでも案内をしております。また稀に突発歌会などを週末に開催します。
歌会内容は以下のTwitterアカウントでもご覧いただけます。お問い合わせはこのアカウントへのレスやDMなどででも大丈夫です。
https://twitter.com/kagaminokai
歌会の雰囲気や詳細などは以下のモーメントもご覧ください。
https://twitter.com/i/moments/951317548221415429
富山・海市歌会
富山での歌会です。未来短歌会・エペの会合同の超結社歌会ですが、歌歴も所属も一切問わない歌会です。結社などに所属していなくても、初めて短歌を詠んだという方もよくいらっしゃいます。開催は富山県民会館の会議室で基本的に第二水曜か木曜の夜となります。みなさまのご参加をお待ちしております!
大田美和歌集『飛ぶ練習』評
問いかける練習を――大田美和歌集『飛ぶ練習』評
さだまらぬ胎児の意思に揺さぶられ「わたしは」という主語がぐらつく
■初出:『短歌現代』2003年8月号 |
未来短歌会 富山 作品批評会のご案内
このたび富山におきまして、未来短歌会の作品批評会、すなわち歌会を開催することになりました。
本来は東京で行われる作品批評会ですが、新型コロナウイルス流行下にあって、首都圏への往還が困難な地方在住者のために、三密を避けた形で小規模の歌会を開催する試みです。
「未来」会員以外もご参加いただけますが、三密回避のためお席に限りがございます。お早目のお申し込みをお勧めします。
なお、今回は1「(主に西日本側の)未来会員」、2「北陸、中部、関西圏等の一般の方々」に優先的にご出席いただくことといたします。それ以外の皆さま、特に首都圏の方は今後近隣で企画されるイベントにご参加ください(参照→未来カレンダー/ 歌会・行事・イベント)。
日時 2021年4月17日(土) 午後1時~5時(開場0時半)
場所 富山県立高志の国文学館 会議室101
高志の国文学館 | 交通アクセス・駐車場のご案内 (koshibun.jp)
評者 大辻隆弘 道浦母都子 高島裕 黒瀬珂瀾 ほかゲスト評者など予定
会費 2500円(当日受付でお支払いください)
当日は未来短歌会理事長・大辻隆弘による特別講演「竹山広の歌」もございます。約30分ほどの予定です。
参加希望者は黒瀬珂瀾(karan@d1.dion.ne.jp 930-0173 富山市野口1196)までお早めにお申し込みください。
自由詠1首を黒瀬までご提出ください。締め切りは4月10日(土)です。
当日はマスクのご着用をお願いいたします。また、感染拡大の状況により中止もしくはオンライン開催になる可能性があります。ご了承ください。
カン・ハンナ歌集『まだまだです』について
2020年1月11日に連続ツイートしたカン・ハンナさんの第一歌集『まだまだです』(角川書店)の感想をせっかくなので記事にまとめます。
ソウルの母に電話ではしゃぐデパ地下のつぶあんおはぎの魅力について
「つぶあんおはぎ」が絶妙。航空券は高くて買えず帰省できないので国際電話カードを買って母に電話するという背景があるが、「電話ではしゃぐ」に哀切さがある。
図書館の判が押された本五冊両手におさえ急行に乗る
学生の日々だろうか。健やかな抒情。
傘のなか彼から汗の香りがしたどうやらその日が梅雨の始まり
どきっとする。カンさんは日本の湿度の高さに驚いたようだか、そこからかような歌が生まれたのはすごい。
ペンだこを何度も触る夜中二時海なんてない火星のように
上手い。勉強中のふとした孤独感。この歌集で「海」は特集な意味を持つ。母国韓国と日本を隔てる境界のイメージだろう。海のない火星は作者にとってどのような地なのか。
赤い赤い垢すりタオルで母の背の垢を落とすこと十か月ぶり
切ってあげる伸びた鼻毛を切ってあげる 母の頭をふんわり押さえ
各文化で親愛の情の表しかたも色々あって、作者はこの描写が日本語圏で独特な詩になることをよくわかっている。皮膚感覚の差をよく活かした。
ニッポンで何を超えたいのだろうか日が昇ってから本二冊閉じ
日が昇ってから、ということは、つまり夜中も徹夜して資料を読んでいたということ。そして朝になってもまだ読み続ける。勤勉な院生の姿の奥に何かに急かされる切迫感がある。そこに〈国〉があるという状況。
続いての「つ」の発音と、ございますの「ざ」の発音でどうしてもバレる
散文的だが立ち止まらせる。韓国人であることが「バレる」のだろう。そんなの気にしなくても、とはマジョリティの勝手な感覚で、作者には複雑な感情がある。それを発音のトリビアルな点で表現した。
期限付きの在留カード持ち歩き いつか終わりのある木を植える
ストレートな比喩だが納得。
カバンには天神さまのお守りと石より重い広辞苑さま
ちょっと笑った。自在なユーモア。天神守りが異文化として新鮮味を帯びる。歌集には神社や御朱印等への言及もある。
冬雨が早いスピードで降りてくる窓の向こうを永く眺める
ふゆさめ、を歌にした日に金沢から「ぜひこのままで」追伸入る
実は「冬雨(ふゆさめ)」という言葉はない(「とうう」とは読む)。ネタバレだが、金沢から「ぜひこのままで」というメールを送ったのは僕だ。「ふゆさめ」という造語が許されるのかカンさんは大変気にしていた。僕はとても美しい言語観だと思った。
トランプもキム・ジョンウンもパク・クネも日本のニュースの主人公となり
韓国と日本どっちが好きですか聞きくるあなたが好きだと答える
母の子は母が思うより母想う線路伝いに咲く菜の花も
「現代短歌」2017年5月号で僕とカンさんは「異郷」というテーマの二人五十首の共作を行った。上記はその「異郷」初出時に読んで感銘を受けた歌。特に二首目は帯の五首選に入っている。「異郷」25首は今回の歌集ではその一部が「スプーンください」「ハッピーエンド」の章に再編して納められている。興味ある人はぜひ「現代短歌」もお求めください。
以上、まだ歌集の三分の一程度だが、『まだまだです』の魅力は分かってもらえると思う。ぜひ実物を手に取って読んでほしい。
「原佳子第一歌集『空ふたたび』を読む会」のお知らせ
きたる12月12日(木)、名古屋栄にて「原佳子第一歌集『空ふたたび』を読む会」を開催します。平日ではありますが、もし、ご興味ある方、どうぞご参集ください。
興味はあるがまだ歌集をお持ちでない方もぜひご連絡ください。著者からお送りします。
原佳子第一歌集『空ふたたび』を読む会
失われた幼い命への追悼を通して見つめる大空と四季の移ろい。
再生してゆく家族と人生の物語。
原佳子さんの第一歌集を多角的に語らう会を設けます。
多くのみなさんのご参集をお待ちしております。
特別ゲストに小島ゆかりさん(コスモス)をお迎えいたします!
稀少な機会ですので、どうぞ。
日時 2019年12月12日(木)、午後1時開場、1時半開始 午後5時終了
場所 長円寺会館 名古屋市中区栄2-4-23
地下鉄「栄」駅徒歩8分、同「伏見」駅徒歩5分)
基調レポーター:篠田理恵
特別ゲスト:小島ゆかり
発起人:きらさぎあいこ 黒瀬珂瀾 未来短歌会有志
会費:2000円
会の終了後、懇親会を設けます。ぜひ楽しい時間をお過ごしください。懇親会からの参加もOKです。
会場:博多花串 名古屋市中区錦3-12-25 名古屋サミット2F
会費:4000円程度
『空ふたたび』5首選
ビル街のゼブラゾーンを渡るとき見上ぐる空は碧き十字架
五回に一つ止まる呼吸を呼び戻さむ子の枕辺に名を呼びつづく
「細胞のひとつひとつが聞いてるよ目を閉じてても声でなくても」
吾子が渡りきること叶わざりし道きょうもわたしは歩むほかなし
大き空にビードロほっぺん響かせる生まれておいでもういちど君
書評ブログ
▼存在しない何かへの憧れ:《歌集読む 215》原佳子『空ふたたび』 ~一文字に結んだ口もと、ほか
参加希望者おられましたら、黒瀬(caltert@yahoo.co.jp)までお早めにご連絡を。よろしくおねがいします。
現代短歌ミニシンポ in 富山「〈いま〉を吹き抜ける」のお知らせ
この度、現代短歌の最前線を走る二人の歌人、山階基さんと笠木拓さんが、第一歌集を刊行されました。それを機に、関東から山階さんをお迎えし、富山在住の笠木さんとともに、新歌集について、そして、お二人が注目する現代短歌の動向、面白さ、読みどころなどを縦横無尽に語り尽くしていただくクロストークを企画いたしました。
富山の地でこのようなイベントが開かれるのも少ない機会だと思います。短歌や詩歌に興味ある方、「言葉」が好きな方、短歌って何だろうという方、お近く遠くを問わず、ぜひご参集ください!
山階基第一歌集『風にあたる』(短歌研究社)、笠木拓第一歌集『はるかカーテンコールまで』(港の人)刊行記念
「現代短歌ミニシンポジウム in 富山 〈いま〉を吹き抜ける」
日時:2019年11月10日(日)、午後1時開場、午後1時半開始
場所:富山・高志の国文学館・研修室101
http://www.koshibun.jp/guidance/access.html
参加費:1000円(公開歌会に出詠参加される方は別途500円ご負担ください。当日、おつりが発生しないようご協力お願いします)
なお、高校生以下は参加費無料といたします!
セッション1 公開歌会~短歌を読む・語る 午後1時半~午後2時45分
ゲストの山階基、笠木拓を交えての公開歌会(司会:黒瀬珂瀾)
歌会って何? 短歌ってどうやって批評するの?
どんな短歌トークが拡がるか、どなたも参加歓迎の公開歌会。
ゲスト2名の他、希望参加者を募集。
セッション2 現代短歌ミニシンポジウム 〈いま〉を吹き抜ける 午後3時~午後5時
出演:山階基・笠木拓 (司会:黒瀬珂瀾)
※新歌集クロストーク(好きな歌10首選発表)
※ここ10年のイチオシ現代短歌5首を巡って
※〈いま〉、短歌を作る~東京そして富山で詠むということ
※会場との相互トーク
当日は資料を配布しますので、歌集をお手持ちでなくとも問題ありません。会場にて新歌集の即売も考えておりますが、現在調整中です。
終了後、懇親会もございます! ぜひご参加ください! 会費5000円の予定です。
「韓国料理と焼肉酒房 とんコギ」 富山市内幸町3-1 エイゼン第一ビル 2F
お申込みはメールフォーム(http://www.kurosekaran.com/mail/postmail.html)もしくは黒瀬のツイッター(https://twitter.com/karan_mirai)にDMどうぞ。その際、
1・お名前 2・連絡のつくメールアドレスなど
3・歌会への出詠参加を希望するかどうか 4・懇親会の出席・欠席
をご明記ください。会場は研修室半分使用のため、お席に限りがあります。お早目のお席の確保をお勧めします(ご希望に添えない場合は申し訳ありません)。
~公開歌会について~
公開歌会はゲスト以外に出詠参加希望者を募集します!
歌会とは、作った短歌をみなで持ち寄り、お互いに批評したり感想を言いあったりする会のことです。短歌を作るのが初めての方、歌会に初挑戦の方も大丈夫! 山階さん、笠木さんを交えての楽しい短歌の時間をお過ごしください。
当日は歌会への出詠参加者が会場の前方で歌会を行い、その様子を他のイベント出席者に自由に見学いただく形となります。歌会に初めて触れる方でも、参加・見学を通して、「歌会とはこういうものか」とご実感いただけることでしょう。
歌会への出詠参加希望者は、申し込み時にその旨をお知らせください。出詠参加申し込み締め切りは10月14日(月祝)とさせていただき、応募者が定員を超えた場合、抽選といたします。出詠参加の方のみ参加費とは別途500円ご負担ください。短歌のご提出については改めてご案内します。
~ゲストご紹介~
山階基(やましな・もとい https://twitter.com/chikaiuchini)
1991年生まれ。2010年より作歌。早稲田短歌会出身。未来短歌会「陸から海へ」出身。短歌同人誌「穀物」などに参加。第59回短歌研究新人賞次席。第64回角川短歌賞次席。第6回現代短歌社賞次席。2019年『風にあたる』(短歌研究社)を上梓。短歌同人誌を中心に組版やデザインを手がける。
自選5首
ほっといた鍋を洗って拭くときのわけのわからん明るさのこと
菜の花を食べて胸から花の咲くようにすなおな身体だったら
三基あるエレベーターがばかだからみんなして迎えに来てしまう
ないような夜と海とのあわいからちぎれる波に洗われていた
夕闇にしずむこの世のおみやげに吊るしたシャツは風が抱き取る
笠木拓(かさぎ・たく https://twitter.com/fakefakefur)
1987年新潟生まれ。石川育ち。富山市在住。2005年から作歌を始める。翌年から「京大短歌」に参加。第58回角川短歌賞佳作。第6回現代短歌社賞次席。現在、「遠泳」同人。2019年、歌集『はるかカーテンコールまで』(港の人)。
自選5首
もうここへやってきている夕映えの手首まで塗るハンドクリーム
青鷺、とあなたが指してくれた日の川のひかりを覚えていたい
きっと届きはしないから伸ばす手があって夜の螢の辺にふたりいる
ぼくの夢は夢を言いよどまないこと窓いっぱいにマニキュアを塗る
忘れた、といつか答えて笑うだろうこの夕暮れの首のにおいも
金川宏歌集『火の麒麟』について
2018年8月13日、twitterで連続ツイートした金川宏さんの第一歌集『火の麒麟』の感想を、折角なのでブログ記事としてまとめます。ちょっとだけ加筆しました。では。
夏でお盆で暑いので金川宏歌集『火の麒麟』を読みます。
とめどなく夕べの雲はくづれをりめつむりてゐる汝の背後に
巻頭歌。私、汝、空、の三層が移ろう。くずれてゆく雲を背景とする「汝」はまるで神のようでもある。その「汝」が目をつむってるからこそ、私は「汝」と雲を見ることが許される。
酔ひ醒めて戻り来れば神のごと月の光は椅子を占めゐつ
美しい。酩酊から帰ってきた私の目に、月光は神のごとくうつる。「椅子」なのがいい。この月光の神は立っているのではなく、座っている。だから静けさが満ちる。
帰りきてノブ回すときわれ待ちて部屋に犇めく闇を思ひき
これも帰ってきた歌。闇に待たれている自分、という存在。その自分がこれから闇の犇めく中へ帰る。
炎天を飢ゑつつ歩むわが街のいづこの窓も閉ざされゐたる
一方この歌には、どこにも入れない自分がいる。
古井戸の底なる空をひびきあふ雲雀らのこゑ祖(おや)たちのこゑ
古来数多い「雲雀の歌」の逆バージョン、だろうか。雲雀は、空は空でも、古井戸の底に移り込む地底深き空を飛ぶ。その地の空に歌うのは祖先。ということは、私もかつてはこの地の空にいたのだ。
仰ざまの視界を過るちぎれ雲おまへも問ふなわれの行方を
これも空を覗く歌。己の行方を問われ続け、疲れた「私」は雲にも心を許せず天を仰ぐ。
だれしらぬ冬の夜更けにわが父は黒き柱をみがきゐるやも
少しホラー感覚の歌。これも、心を許さない自意識の表れかもしれない。
灯さねば月光(つきかげ)しろく射し入りてささやくごとしひとりの窓は
美しい歌。闇を広げたために得ることのできた、ささやきのような明かり。それが私一人の生にさしこんでくる。
地の涯て焚かるるごとき夕映えや母を呼ぶべく咽喉ひらきをり
集中でも特に素晴らしい歌だと思う。初句の「ちのはて」という一音欠落が呼び出すこの断絶感。何かが焼き滅ぼされるかのような夕照の中で、声にならぬ声を挙げんと咽喉を開く。母を呼ぶこの声は絶叫にして無音だろう。(追記。初句は「ちのはたて」と読むのかもしれない。だとしたら定型尊守の歌になるが、ルビがあるわけではないので、読者それぞれの好きに読めばいいのだろう)
わが肉へ言葉欲るとき蠟の炎のめぐりに集ふ夜の風あり
この「風」はまるで蛾や羽虫のようだ。言葉とはこうして生まれるのかもしれない。
ものの音絶えしビル街あゆみゐつ崩ほれるごと来むか未来は
するどいディストピア感。ビルの崩落を幻視しつつ、未来の悲劇を思う。
げんげ田に花摘みゆけばみごもりし母にゆきあふ杳きゆふぐれ
幻想の一首だけど、ちょっとタイムリープものSFな感じもする。
汝の乳房つつみてゆける夕闇にまぎれてわれは母呼びにけり
先の歌と並んでいるのがこの一首。作者にとって「母」はなかなか複雑な存在だ。
地の創に呼ばるるごとく雷ひかる生まれむとするものら犇めく
これとか先の「母」の歌なんか前衛短歌の雰囲気というか繋がりを感じるわけで。出生への猜疑というか。
晩餐の果てたるのちの月光(つき)射せる卓にか黒し父の臓腑は
月光偏愛と父殺し。これも前衛短歌の系譜かな。
沈黙と言葉ひとつを測りあふときしもわれは月に濡れたり
月、お好きですね。個人的に連帯感を持ちます(笑。これなんか創作する人は共感できる一首じゃないかな。
目覚むれどなほつづきゐる夕闇の底ひほのかに枇杷の実あかる
集中ではかなり素朴な歌だけど枇杷の存在感凄い。
血の暗喩、微量のむらさき、少年の詩歌焚きゐつやよひきさらぎ
好きですこういう歌。確かに今はあまり見ない歌いぶりですが、この現代歌謡の響きはまさに前衛短歌の遺産。拙作の「眼には海、空には雨月、寝台には頸青き少年二人の夜会(ソワレ)」(『黒耀宮』)なんてのもこの系譜上ですね。
ひと欲れるこころやまねばみづからの肉(しし)に鎖すべし血も月光も
人恋しさの人嫌い。かっこいい。
たかきたかき光の檻を堕ちゆける夏の雲雀よその蒼き眸
「ふかぶかとあげひばり容れ淡青の空は暗きまで光の器」(高野公彦)、「三月の真っただ中を落ちてゆく雲雀 、あるいは光の溺死」(服部真里子)等と比較してみてもいい。金川作は雲雀の目へ一気にクローズアップしてゆく妙がある。
口に血のにほふゆうべを疾駆する従ふものはみな夭き死者
これも時代性だな、と思う。「疾駆」のイメージも今現在の短歌ではやや見かけ難いものの一つかもしれない。歌人は死者の先頭にたって走る、という意識は、たしかにあった。
『火の麒麟』は、金川宏さんの第一歌集。20歳から29歳までの作品303首を収める。雁書館、1983年6月23日発行。跋文は松平修文。
この徹底した、そしてどこか潔癖感を思わせる「修辞」は、一時期たしかにその系譜を細くはしたけれど、平成末頃からまた、短歌の世界で読者に親しいものになりつつあるようだ。例えば、井上法子や服部真里子といった作家と金川宏を読み比べる営みに、豊かな詩情の鉱脈を感じる。
現在入手可能な金川さんの歌集としては第三歌集『揺れる水のカノン』があります。短歌とソネット詩とがからみあい、夢幻と現実を橋渡しする、不思議な一冊。ご購読をお勧めします。
玲瓏叢書一覧
「玲瓏」会員を収録対象とした歌集シリーズ「玲瓏叢書」、ネット上にも意外と情報がきちんとまとまってないので、まとめてみました。
第1篇 塚本邦雄『玲瓏』 1988.8.28発行 1700円
第2篇 江畑實『梨の形の詩学』 1988.5.20発行 1700円
第3篇 荻原裕幸『青年霊歌 ーアドレッセンス・スピリッツー』 1988.5.20発行 1700円
第4篇 和田大象『禊ぞ夏の』 1989.2.20発行 1700円
第5篇 小角隆男『櫂歌』 1989.2.20発行 1700円
第6篇 塘健『出藍』 1989.6.26発行 1700円
第7篇 岩田憲生『虹盗賊』 1990.11.15発行 2000円
第8篇 笹原玉子『南風紀行』
第9篇 照屋真理子『夢の岸』 1991.10.15発行 2300円
第10篇 岩田眞光『百合懐胎』 1991.12.15発行 2300円
第11篇 林和清『ゆるがるれ』 1991.12.15発行 2300円
第12篇 阪森郁代『靡けたてがみ』 1992.10.15発行 2300円
第13篇 尾崎まゆみ『微熱海域』 1993.2.15発行 2300円
第14篇 西田政史『ストロベリー・カレンダー』 1993.6.25発行 2300円
第15篇 秋谷まゆみ『薔薇殺法』 1993.10.15発行 2700円
第16篇 須川よう子『酢薑』
第17篇 山城一成『葉隠様式』 1995.11.11発行 2700円
第18篇 安森敏隆『わが大和、わがシオン』 1996.11.23発行 2700円
第19篇 瀬戸克浩『アトランティス』 1997.8.4発行 2700円
第20篇 田中浩一『原罪進行形』 1997.11.11発行 2700円
第21篇 宮尾壽子『未央宮』 2000.4.30発行 2700円
第22篇 築林歌子『戀文』 2001.11.11発行 2700円
第23篇 室谷とよこ『ゆめわすれざる』 2002.9.9発行 2700円
第1篇から第15篇までが「書肆季節社」刊。第16篇から第23篇の8冊が「玲瓏館」刊です。この叢書の売りは、塚本邦雄が解説を執筆するという点でした。従って、塚本邦雄の体調悪化に伴い、本叢書は自然と停止してしまったようです。
手持ちの範囲で発行日と価格を追記しました。後記などを見ても、どうやら塚本さんの『玲瓏』より江畑さん、荻原さんの歌集が先に出たみたいですね。第15篇までは印刷所・精興社、製本所・三水舎のようです。発行所が玲瓏館に変わってからは印刷所・東洋紙業高速印刷株式会社になっています。